レディー・ラーク


 夜もだいぶふけてきて、町はずれにある木造の家からは明かりが漏れ、中をちらりとみると人々がグラスをかこんで談笑しているのが見える。どうやら酒場
のようだ。中に入ると店のママらしき人物が声をかけてきた。
「いらっしゃい、なんにするんだい」「ウイスキーをくれないか」
「はいよ」ウイスキーを一口飲みその口当たりを楽しんでいると
ぽろろん 店の奥から弦楽器の音が聞こえてきた。顔を向けてみる少女が竪琴を持って座りいすに腰掛けている。
長くたれさがる黒髪、垂れ下がった生地、民族っぽい帽子、どこの国の出身だろうか。少女がおもむろに即興で曲を1曲奏でると、店の客は話を止めて耳を傾けた。
曲が終わるとあちらこちらで拍手が起こる。少女軽く頭を下げ、こう続けた「皆さん、ようこそレディー・ラーク(店の名)に。本日の余興といたしまして歌物語を1曲披露しましょう。」少女は竪琴に指をかけ、静かにに語りだした。
「どんな歴史書にも文献にもかかれていない 人伝えによってのみ語られる物語
星の数ほどあるその中から、ひとつを選んでお話することにしましょう
時は昔、ガラードという国にあるというリーフォという町にホークという盗賊がいました…

「今日の稼ぎはいまいちってとこだな」ホークは盗賊ギルドを後にした。裏路地を抜けてしばらく町外れにすすむと
蔦に覆われた1軒のあばら家が見えてくる。そこにホークは入っていた。
「帰ったぜ」
「ようホーク、今日は早いな。調子はどうだ?」仲間のグレイが尋ねてきた。
「さえない結果だ。おまえはどうなんだ?」  
「似たようなもんだ」
「そうか、最近金持ち連中も護衛がしっかりしてるからな」
「ホーク、おかえり」 
2階からバンダナをした栗色の髪の女性が降りてきた
「バーバラ、ジャミルはどこにいってるんだ?」
「朝聞いたとこだと新市街の富豪とこらしいけど」
「あいつは、また危ない橋を渡ってるな。新市街の富豪って言ったら捕まえた賊をなぶり殺しにすることで有名な奴じゃねえか」  
「いいじゃない、昔っから1穫千金狙いって感じの性格なんだから」
「ピンチになったらおまえが助けにいけばいい」
「いやだね、俺はまだ死にたくない」
「まったく盗賊団オーファンズのリーダーがそんな腰抜けでどうすんだい」
「リーダーって言ったってギルドの手続きを押し付けてられてるだけだろ」
「なかなか自分の立場をわかってるな」  
「てめぇ、毎月ギルドの役人にへこへこする俺の身にもなってみやがれ」
「愚痴を言わないの、盗みの腕前も認めてのリーダーなんだから」
「それは本当か?」
「まあ、おれとバーバラの次の実力はあるな」
「ちぇっ、下から2番目じゃねえか」
「今帰ったぜ」
ジャミルが帰ってきたが、体中傷だらけだ
「ひどいやられようだな」
「砂利道で転んだのか?」
「冗談言うな。どじやって見つかったんで、通気口を通って逃げたんだが、そこにバターが塗って
あって庭中の犬コウに追いかけられた」
「ははは、そりゃ傑作だね」
「まあ、命が助かっただけでもよかったじゃねえか」
     (以下ジャミルを交えた会話がしばらくつづく)
「冗談はさておき次のでっかい山なんだが」
「ターゲットはブッチャーの屋敷よ」
「ブッチャーの屋敷か、あの強欲商人として有名な奴の所だな」
「大丈夫なのか?護衛に屈強な騎士が何人もついてるって噂だぜ」
「心配しないで近々大掛かりな引越しをするらしいの。それで輸送や何やらで警備が割りとてうすになるわ」
「さすがは耳年魔のバーバラだ」
「ふざけたことを言ってると切り刻んで魚のえさにするよ」バーバラがジャミルをにらみつける。
「2人とも喧嘩はやめろ」グレイがとめに入った。
「じゃあ、分担を決めるよ。グレイとホークが部屋の物色、ジャミルが逃げ場の確保、で私が警備のおとり。文句は無いね」
「また地味な役まわりか」ジャミルが不平を言う
「おとりは1人で平気か、バーバラ」
「そうゆうの余計な気遣いって言うのよ」
その後4人は夜がふけるまで部屋の間取りや警備の配置などを計算に入れ、綿密な計画を練った。

3日後の夜が更けた頃ブッチャーの屋敷に忍び込む4人
「思ったとおりこっちは警備は手薄だね。じやあ、ここは私にまかせて2人は中に忍び込んで」とバーバラが言った。
ホークとグレイが屋敷の中に進入するが、予定外、宝物部屋の隣の部屋の明かりがついている。中をのぞくと人影が見える
「中に人がいるなんて、計算外だな」
「ここは俺が何とかしよう」ホークが受け持つことになった。
部屋の中1人の女性はっ、と振り返る。
「おっと、騒がないでくれよ、俺は見てのとおり盗人だ。へたに騒ぐと命の保障はしないぜ」といって口をふさぎ手を後ろで押さえる
無言で震える女性、何か言いたげである。
「なんだ?おとなしくしてろよ」
少女は首を振り、身振り手振りで自分ののどを指し示す。
「声を出すことができないのか、それと腕のその火傷の跡…そういうことか」
恐怖心の潜む目でホークを見る少女にホークは言った。
「安心しな、変に騒いで仕事の邪魔をしないかぎりはなにもしないさ。仕事が終わるまでおとなしくしててくれるかい?」
女性は小さくうなずいた。
「それにしても豪勢な屋敷だな、」ホークは部屋を見回してそうつぶやいた。女性がじっとホークを見ている
「暇つぶしに、ゲームでもするか。ここに10カート硬貨がある、よく見てな。」指で跳ね上げ右手でつかみ、両手を前に出す。
「どっちの手に、硬貨が入ってると思う?」恐る恐る右手を指差す。
「残念、正解はこっちだ」ホークが左手をあけると硬貨が現れる。「もう一回やるぜ。」
硬貨を跳ね上げ右手でつかむ。「どっちだ?」右手をさす「素直な性格だな。残念、はずれ。左手も何も入ってない」少女は不思議そうにホークの手を眺める
「硬貨は何処に行ったかというと、あんたの胸ポケットの中だ。」女性が胸ポケットをさぐると、中から硬貨が現れる。
「盗賊連中がよくやる簡単な手品ってやつさ、手先の訓練をするにはちょうどいいんだ」
グレイと別れてから時間がしばらくたった。
「おそいな、グレイの奴」
「終わったぞ」隣の部屋からグレイが戻ってきた。
帰ろうとするホークに女性は身に着けているペンダントをさしだした。
「あんたみたいな人間から物を取るのは主義じゃないんだが」そう言うホークに女性は目で何かをうったえるしぐさをした。
「わかったよ、これはありがたくもらっておくよ」
「ホークぐずぐずしてるな、帰るぞ」
「じゃあな、」ホークは女性に別れの挨拶をした。女性もホークに手を振りそれに答えた。
「グレイ、どうだった」
「どうもこうもねぇ、これっぽちの財宝もありゃしねぇ」
「そうか、そいつは残念だ」
   
悪態をつくと、4人は屋敷からずらかった。


 翌日の早朝、ホークはギルドに出かけていった。
稼ぎを報告しているところにちょうど長がきた。いやな奴が来た
「ホーク、でかい山狙った割にはすずめの涙だな」
「計画は完璧だったが、ここに集まる情報の質がいまいちでね。俺たちが行ったときには宝は大方運び出されていたあとだった。」
「ふんっ、いっちょまえな口を利くじゃねえか」
「まあ、ホークもその辺にしておきな」世話人がとめにはいる。
帰り際、ギルドの目付け役がホークに声をかけてきた。「おまえ、最近何かやばいことでもやったか」「盗み意外でか?」
「このあたりじゃ見かけない連中がおまえのことをかぎまわってる、外をうろつくときには気をつけるんだな。」                        
「一応耳には入れとくよ」
帰る途中
「このあたりじゃ見かけない連中、二月前盗みに入ったガルトの町の貴族か?たいしたものは盗んでないが、小さいことを根に持つタイプだったからな」
アジトにつくと窓が破られている。胸騒ぎを覚えたホークは急いで入り口にむかい、ドアを開けた。
部屋が荒らされている
「!!!!」
床を見渡すと、ところどころに血痕が残っている。その先には床に突っ伏した男の体が見えた。そばに駆け寄るホーク
「しっかりしろ、グレイ!」その問いかけに対する答えは返ってこない。仰向けにすると胸の部分が血で赤く染まっている。
「くっ、心臓を一突きか・・・」
ごとり、向こう側の部屋で音が聞こえた。
「!?」ホークは手を剣にかけ、扉に近づき耳を済ませた。
ごとり、また音が聞こえた。
ホークは、大きく深呼吸したあと思い切ってドアを蹴破った。部屋を見渡すが、人影はない。
ベットの脇で動くものが見えた。
「バーバラ!、大丈夫か!!?」
「ホ、ホーク…」
「しゃべるな、今傷の手当てをする。」
「ハァ、ハァ、あたしは、もう、だめ…それより聞いて、あたしとグレイをやった奴は、ロザーリア家の人間、だ」
「ロザーリア家の人間!?何でそんな奴がこんな田舎町にいるんだ。」
「知らないよ、でも、あの紋章は、ロバーン王国のものに間違い、ないね」
「そうか安心しろ、仇は必ず討ってやる。」
「やめときな、グレイとあたし、2人がかりでも、傷ひとつつけてやれなかった。」
「なんだと!?相手は1人だったのか!?」
「それより、ジャミルが、1人で出て行っちまった、新市街の富豪の所だ、あいつを、止め、」ホークの腕の中でバーバラがぐったりと崩れ落ちる。
「バーバラ!!! くそったれ…」ホークはむなしく天井を見つめた。
ホークはグレイとバーバラの体にシーツをかぶせると、アジトを後にした。
「仇は討つ、・・・・・・・グレイとバーバラ2人がかりで勝てなかった奴か」心なしかホークの体は震えているようだった。


新市街の富豪の屋敷に忍び込み、広間に着いたホーク
そこでホークが見たものは床に伏せった血まみれのジャミルだった。
「一足遅かったようだな、もう少し早くこの場所に来れば仲間と一緒にあの世に行けたものを」マントの男がホークにそういった。
「!!?仲間を殺したのはおまえか?」ホークは目の前の貴族に聞いた
「そうだ、惚れ惚れするような剣さばきだったろう」さらりと答える男に、ホークは歯軋りをする。
「どうして仲間を殺した?」
「理由は簡単だ、おまえの居場所を聞いたら教えるのを拒否したからだ。」
「なぜ俺をつけまわす?」
「ハインリッヒという人物を知っているか?」
「ああ、俺のような仕事についている奴で知らないものはない。伝説の秘宝コレクターだ。」
「そう、おまえが首から下げているのがその秘宝のひとつだ」
「でたらめだろ、これをくれた女はそんなたいそうな奴じゃない」
「でたらめではない、その女はただの女じゃない。」
「わかりやすく説明しろ」
「秘宝を手に入れようとした強欲商人ブッチャーは色々手を尽くしたが何のことはない、秘宝は自分の所有する娼婦街にあったってわけだ。」
「なぜ、おまえは秘宝を手に入れようとする。」
「私は王家の雇われ人だ。取り戻すためには何をしてもかまわないといわれている。死ぬ準備はできたか?」
「ただじゃ、やられないぜ」
2人の決闘が始まった、みるみるうちにホークの体に傷が増えていく。
「しかし、盗人とはこうも弱いものか、あきれかえるぞ。犬小屋でかたづけた2人もそうだったがな、虫けらは虫けら程度の力しかだせんということか。」
ホークの全身に怒りが満ちていく、そのときペンダントの宝玉がひときわ輝きを増しだした。
「!?、秘宝の力が解放されているのか?」
ホークの体から信じられない力・スピードが沸き起こる。ズバババン、剣が貴族の体を切り裂く。
ひざまずく貴族にホークが近づく。剣を振り上げ空中でとめる。
「どうした?仲間を殺した私が憎いのだろう、一思いに殺せ」剣がきらりと空中を舞う
「ヴッ」貴族の顔に鮮明な赤い線が浮き上がる。
背を向けるホークに貴族が言う
「貴様、私に傷を負わせてただで済むと思うなよ」「知ったことかよ、」うつむいてホークは言葉を発する「・・・・・傷痕を見るたび盗賊団オーファンズの名を思い出せ」
貴族を残しホークは広間を去っていった。


翌日、ホークはギルドに来ていた。昼間のギルドには、ホークと世話役しかいない。
「本当に登録を抹消してもいいんだな。」
「ああ、かまわない」
「長に頼めば王家の人間に目をつけられようが、ほとぼりが冷めるまでかくまうくらいはできると思うが」
「そこまでしてくれることはないさ」
「なにいってんだ、そういう厄介事を見込んでのギルドってもんだ」
「自分の身くらいは、なんとか自分で守れる」
「おまえがそう言うなら無理強いはしないよ」受付はまた書類を書き出した。 
「それから、隠れ家も所有をギルド名義に戻しておいてくれ」
「規則ではそうすることになっているが、おまえは長年ここで働いてくれた信頼と実績があるし、ギルド内での評価も高い。
別にこのまま住んでてもらってもこっちとしてはかまわんぞ」
「仲間もいなくなっちまったし、もういいんだ」
「そうか、それじゃあこっちの書類にサインしてくれ」
手続きを済ませギルドを後にするホークに世話役が声をかけた
「仲間のことは残念だったな。あまり気に病むなよ」
わかったよというサインにホークは片手をふった
ホークは教会へつづく道を歩いていった。
ホークは共同墓地区域から離れた所にある小高い丘に来ていた。
丸太で作った十字架が3つ並び、ポートピーの花が添えられている
「悪いな、こんな辺鄙な所になっちまって。神父に言ったら身寄りと金の無い奴は共同墓地には入れないんだとさ。
まあ、ここのほうが日当たりがいいってことで勘弁してくれ」ホークは続けた
「まず最初にあやまんなきゃな、おれが甘かったせいで仇は完全に討てなかった、すまん」
3つの十字架に話しかけるホーク
「グレイ、俺が駆け出しの頃はにいろいろ教えてもらって世話になったな」
「バーバラ、ギルドの連中といざこざ起こしたときにはよく仲介にはいってもらったよな」
「ジャミル、いつか盗賊団オーファンズを世界一の盗賊団にするんだって2人でよく言ってたよな。いまはゆっくり寝てろ」
「何かいまいち殺風景だな」ホークはそばにある子供の背丈ほどある岩にナイフで刻み込んだ『盗賊団オーファンズの
勇士  ここに眠る』「これでいいか」
最後に全員の墓に話しかける
「王家にかかわる人間に手を上げちまったし、なんやかんやでこの町にも住みにくくなっちまった。
俺はこれからグラーラ大陸に行こうと思う。港でちょうどいい船が見つかったんだ。
もうここには戻って・・・・・・・・いや違うな、いろいろやって落ち着いたらまたここに戻ってくる」
「きっとだ」
ホークは丘をあとにした。
夕日が緋色に照りつける中ホークが去った丘にはポートピーの花びらが静かに舞っていた。


 少女がゆっくりとした指使いで竪琴を弾きながらこうつけたした
「その後大陸に渡ったホークは、自身が持つ首飾りによって、数奇な運命に巻き込まれることとなるのですが
その話はまた別の機会に譲ることにしましょう」
歌が終わると店のあちらこちらで拍手がおこり、幾ばくかのチップが投げ込まれる。
少女は一礼しチップを集めると、店の奥に入っていった。
店のママに尋ねてみる「あの、歌い手さんはどういうわけでこの店にいるんだい?」「悪いけど、あの娘に関した質   
問には答えないことにしてるんだ」「そうか、」「それから、金をつむからあの娘を自分のものにしたいなんて相談もだめだよ」
「そんな気は無いが」そう答えると、グラスに酒を注ぎながらママが言う「どうかねえ、男の考えることなんてのはみんな似 
たようなもんだからね。」最初は活気があふれていた店の中もやや落ちつきを取り戻している。もう宵も深けた頃だ
そろそろ帰ることにしよう。
「勘定をたのむ」「はいよ、この店が気に入ったんならまた来ておくれ」 ほろ酔い気分に身を任せながら
レディー・ラークの店をあとにする。



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