戦争とピンフ
注・麻雀の役の一つで「ピンフ」というものがあります。
「平和」と書いて「ピンフ」と読みます。
作りやすいですがとても地味な役です。
雀荘「ドルストイ」に一人の男が現れ卓に着いた
「お兄さん、見かけない顔だね。大学生かい?」
「いや、一応プロの雀士だ」
「へー、とてもそうは見えないけどなぁ。レートはテンピンだけどいいだろ?」
「全然かまわない」
〜東一局〜
「ロン、ピンフのみ」パタン。卓内にどよめきが起こる。
「あんた、まだ8巡目だぜ。それなら三色も一盃口も狙えただろ」
男は独り言のようにつぶやきだした。
「人がピンフのみであがるとよう、やれ『ミジンコ雀士』だとか、『俺の満貫手潰して楽しいか?』
とか、なじりやがって。人が本当に望んでいるのは平和なんだよ、今こそ平和の鉄槌を下してやる!」
雀ボーイ(この人個人的な恨みを他人にぶつけようとしてる?)
「でもよ、兄ちゃん、ピンフのみってたかが千点だぜ。それだけで勝負はどうこうできねぇだろ」
「おっさん、塵も積もれば山となるってことわざ知ってるか?」
「知ってるけどよ、実際塵が積もってできた山なんて聞いたことねぇな。ガハハハハ!」
「じゃあ今日おまえらに見せてやろう、『キリマンジェロオブダスト』を!」
雀ボーイ(全然カッコよくねぇし、意味わかんないし!)
「普通に考えたら、流局させたほうが得なんじゃない?」
そういった下家の男の胸倉を雀士は掴んだ。
「ふざけたこと言ってんじゃねえよ。『流れでなんとなく成功しました』とか『流れでなんとなく儲かっちゃ
いました』なんて野郎の言葉に魂がこもると思うか?」
雀ボーイ(言ってることすげぇ熱いんだけどさ、やってることすげぇ地味なんだよ)」
〜東4局〜
「あんた、何だその捨て牌。」
「見ての通り大三元崩しだ。」
「崩すってまだ7巡目じゃねぇか」
「大三元を狙ったら、いずれは他人の牌を食わなきゃならねぇ。他人を食ってのし上がるような奴に
平和を語る資格はねぇんだ。」
「・・・どんな打ちかたしても文句は言わねぇけど、負け分はきっちり払えよ」
〜南一局〜
12巡目、「ローソウ」コトリ。雀士が静かに牌を切る。
(はったか?ダマでもテンパイ気配はわかるし、平和と決まってるから待ちも読みやすい。
頼みの綱はツモのみだな、兄さん)
結果、流局。「ノーテン」、「ノーテン」、「ノーテン」雀士「ノーテン」
「兄ちゃん、テンパイしてたんじゃないのか?」
「ああ、崩した」
「崩したって、・・・・オイ、ラス4つ前でツモってるじゃねぇか。」
「決まってるだろ、ツモなんてよけいな役はいらねぇんだよ。」
雀ボーイ(歪みきってるよこの人、よっぽど他のプロにいじめられたんだな)
〜オーラス〜
配牌完了後雀士が口を開く。
「この際ハッキリ言っておこう。配牌時点で俺は国士無双3シャンテンだ。だが国士は狙わねえ。
あくまでピンフを目指す。」
「オイオイ、あんた結構マイナスだぜ。意地張らずに国士狙っときゃいいじゃん。」
「がっはっは、いいじゃねぇか。無茶苦茶だけどよ、何か伝わってくるモンはあったよ。
面白い、この局は兄ちゃんがピンフであがれば負け分はチャラにしようじゃねぇか。」
開始後ヤオチュー牌を切り続ける雀士。
雀ボーイ(字牌は整理できたけど、カンチャンだらけだ。ピンフ狙いはやっぱり無理だろ。
しかしプロの意地だろうか、奇跡がゆっくりと引き寄せられる。ラスヅモでテンパイ、リャン・ウーピン待ち
「どうやらギリギリテンパイにこぎつけたみてぇだな。ハイテイであがることはしねぇだろうから、
オレの捨て牌がラストチャンスになるな。ここは勝負してみよう、これでどうだ?」
切られた牌は・・・・三ピン
「くっ、通しだ」
「残念だったな、兄ちゃん」
しかし、周囲にいるすべての人間がある事実に気づく
(アレっ、流し満貫できちゃってんじゃん。みんな気づいてないのか?言ったほうがいいのか?)
(流し満貫できてるけど、最後まで見届けたくてオレも跳満あがらなかったしな。チャラだろ)
(最後まで平和を貫き通した兄ちゃんに恥はかかせたくねぇ、ここは黙っててやるか)
明らかな事実を皆で黙殺し、流してしまう。
そうして成り立つのが平和というモノなのかもしれない・・・・・・。
おしまい
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