Short Story 翔太の一日『小さなな出会い』

「友達と遊ぶ約束もないし、今日あたりちょっと行ってみっか。」
翔太はわくわくしていた。
大通りをしばらく歩いてから、コンビニのわきを通って裏路地に入り
門をするりと抜けたら秘密の入り口に到着。
「よーし、誰にも見つからないで向こう側までいくぞ。」
こんな所に自分がいることを大人達に見つかったらきっと
ひどく怒られる、そんな思いが心の中にスリルを呼ぶ。
タタタタタ・・・ 広いコンクリートのベランダの窓際のそばを、
小さな影が走り抜けていく。
「順調、順調。」
ふと翔太が前を見ると、白くふわっとしたものが視界に飛び込んできた。
(おっと 何だ、カーテンか この部屋窓が開いてんだな)
好奇心をくすぐられた翔太は、当初の目的を忘れ、ちょっと
のぞいてみることにした。すると、
「あっ!」
中にいる人とばっちり目があってしまった。
翔太は一瞬動きが止まったが、
「なんだ、子供じゃん。」ほっと胸をなでおろす
「何?あなただって子供じゃない。」
一息ついて部屋の中の少女が言い返した。
「ま、そうだけど、大人に見つかったんじゃなくてよかったよ。」
「どうして?」
「いや、見つかったら怒られるじゃん。オレ、怒られるのすごい苦手だから。」
「ふふっ、すごい苦手なら怒られるようなことしなければいいじゃない。」
少女の笑みで翔太の話グセが始まった。
「それがそうもいかないんだ。世の中色々あって」
「何よ、色々って」
「ここってさ、変わったにおいするし、変な服着た人がいるし、変な機械あるし
探検せずにはいられないってこと。」
「ふーん、探検かぁ、元気でうらやましい。」
「そうか?別に普通だぞ。」
「私、病気だから、普通がうらやましいの。」
「病気って、風邪?」
「うんん、もっと重い病気。」
「重いって?」
「うんーと、風邪よりずっとつらいってこと。」
「そうか、それは大変だな。桃の缶詰たくさん食べたほうがいいぞ。」
少女はくすっと笑った
「うん、今度お母さんに頼んでためしてみる。」
そう言って少女がふと壁の時計みると、短い針が4の所
長い針が10の所をさしていた。
「あ、もうすぐ看護婦さんがここに来る時間。」
びくっとする翔太
「やべっ、じゃ、オレ帰る。」
「またね、ばいばい。」少女がそう言った時にはもう姿は無い。
タタタタタ・・・
(今日は変わったやつに会ったな。よし、明日みんなに自慢してやろう。)

夕日で照り返された広いコンクリートのベランダを、小さな影が走り抜けていった。

Fin

Short Story indexに戻る         トップページへ戻る